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――ざぁぁぁ……
茶色の世界に、灰色の雨が降る。
冷たくはない。それが余計に肌には気持ち悪く、じっとり雨を吸い込んだ外套は重く私を引きずる。いっそ脱ぎ捨ててやろうかとも思ったが、下の服を濡らすよりはと我慢した。
かさかさの大地は天の恵みを余すことなく受け取り、水たまりも許さないほどであった。アンヘルは湿った地面に食らいつきながら走って行く。
この雨足なら、すぐ止むだろう――空を見上げれば、ばさりとフードが外れて、髪も顔も雨ざらしになった。
ゴーグル越しの世界が歪みながら煌めいていく。髪が千切られそうなくらい風に引っ張られる。
ウォンとアンヘルが唸り、更に速度をあげれば、服など意味を成さないほど体中はぐっしょりと濡れる。それほどまでに全身ずぶ濡れになればいっそすがすがしく、ゴーグルも邪魔になって一息にはずせば、灰色だったはずの世界は、雨は、激しくも甘く私を包み込んだ。
「――あーっ!!」
なぜそうしたのか分からない――けれど、腹の底から叫ぶと、どうしようもなくぞくぞくした。
子供が嵐を待ち望むあの気持ち。水たまりでバシャバシャ遊ぶ、小さな子供のように、私は笑顔だった。
アンヘルがまた、応えるようにエンジンを鳴らす。
そして――雨の壁の向こうに、ちらちら街の灯りが見え始めた。
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