封印の使い魔

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  アルが家に辿り着く頃には、太陽は既に眠りにつき、代わりに夜更かしな月が、我が物顔で大地を見下ろしていた。 アルは、ステンドグラスで装飾された白いレンガ作りの扉の前に立ち、鍵穴に鍵を差し込む。 ――キュイィィィィン…… 鍵穴からホタルのように淡く白い光が漏れ、ガチャリと錠の開く音がした。 「ただいまー」 ドアを開いて、真っ暗な玄関で声を上げる。 誰も居ない家からは何の声も返って来ないという事は分かりきっているのだが、ついこうして、口を広げる闇に向かって挨拶を放ってしまうのだ。 ――アルには弟がいた。 アルと違い、魔法の腕も優秀で、二つ名を得る日も近いと言われていた有望株だった。 当然、両親は弟を可愛がり、アルを煙たがった。 そして、弟が魔法学園に入る年齢になった頃、両親と弟はアルを一人置いて、隣の街へと引越して行ったのだ。 落ちこぼれであるアルフレッドの弟という先入観がついてまわるアールグラッド魔法学園より、隣街の魔法学園に入れた方が、より公平な目で弟を見てもらえるだろうという考えからきた判断であった。 しかしそれは、あまりにアルの心を無視した判断でもあった。  
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