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この世界で魔法を使えないという事は、そのまま存在意義の消失にすら繋がる。
両親から見捨てられた彼は、否応なしにその事実を突きつけられたのだ。
幼なじみのリースや、アーサー教諭が、必死でアルに対して魔法を教えようとするのも、そういった背景があるからに他ならない。
どうにかして、“落ちこぼれ”である彼が魔法を使えるようにしようと、時に厳しく叱咤し、導こうとしているのだ。
アルにもそれは分かっていた。だからこそ、応えられない自分が悲しかった。
「……今日は、地下に行こう」
誰に聞かせるわけでも無く、彼は呟いた。
この家の地下には、倉庫がある。
家ですら肩身の狭い思いをしていた彼は、何かある度にそこに逃げ込み、保管されている調度品や書簡を眺め、時を潰してきたのだ。
そして、家中が彼のものになった今でもそれは変わらない。
嫌な事や辛い事があった日には、今までと同じように地下に篭り、朝を待つのだ。
今日もその例に漏れず、先の宣言通りに彼は地下室へと降りていった。
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