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「うわあっ! あぶねーな! 当たってたら死んでんじゃねーか!」
あまりの暴挙に、アルは思わず叫び声をあげる。
生徒の脱走を防ぐために結界魔法を施されていたはずの壁に大きな穴が穿たれている事から、彼の放った魔法がどれほどの威力を持っていたか手に取るように分かる。
即ち、粉砕、玉砕、大喝采だ。
「ふん! いっそ一度くらい死んでこい。さあ、早く次の……」
そう吐き捨てて、講義を再開しようとする教師。
だがその瞬間、先ほどまで座っていた席から、アルの姿は消えていた。
「あばよハゲマル! 出口作ってくれてサンキュー!」
慌てて穴の空いた壁の先を見据えれば、聞こえてくる不名誉なアダ名と、チラリと見える金糸のようにサラサラと流れる髪。
そう、アルは壁に空いた穴を利用して、まんまと教室を脱出したのだ。
段々と小さくなっていくアルを、中年教師、『アーサー・マルコヴィッチ』は苦虫を噛み潰したような表情で見送るしか無かった。
そしてアルの流れるような金髪に、自身の若かりし頃を思い出した彼は、今は草木一本生えていない頭上の荒野に手をやり、誰に向けるでもないため息をこぼすのだった。
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