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聞き取れなかったし、何を話したらいいのかわからないので、ひとまず癒多の息が整うのを黙って待つ。
癒「……遅くなって、すまねぇ」
息が整った癒多は開口一番にそう言い、気まずそうに俯いた。
叶「…え?」
癒「…お前を、一人にした。……悪ぃ」
叶「……」
どういう事だろう。
遅くなったって言ったけど、癒多は自分の意思で僕から離れて行ったんでしょ?
あの時別に無理矢理引っ張られてるようには見えなかったし。
それなのに、何で今更僕のところに戻ってきてそんなこと言うの?
何で今更謝るの?
僕とので…でで、でーとは終わったんでしょ?
うん…そうだよ、癒多は僕を置いて行ったんだもん、今日のでーとはもう終わったんだ。
そう思ったら、さっきまで頭でぐるぐる考えてたことも、胸のもやもやも消えて、何故か心がスーッと冷えていくのがわかった。
ぎゅっと手を握り締める。
叶「……別に、待ってなんかいないですよ」
癒「……カナ?」
顔を上げ訝しげにこっちを見た癒多に、僕は視線を合わせてはっきりと言った。
叶「僕は、別に癒多のことなんて待ってません」
瞬間、癒多の目が驚きに見開かれた。
何でだろ…そんな癒多を見ても、僕の心は冷めたままだ。
叶「どうせ僕は連れてきて貰った身だし、謝る必要なんてないです。飽きたら捨ててくれても、置き去りにしてくれても構いません」
僕の淡々とした言葉に焦ったのか癒多が何か言おうと口を開いたけど、聞きたくなくて、顔を見たくなくて、背中を向ける。
叶「…やっぱり僕なんかが癒多の隣にいていいわけないんです。こんな馬鹿で平凡な人間が、癒多と話すことすら本当はおこがましいんですよね」
これは、心のどこかでずっと思っていたこと。
癒多は好きだって言ってくれて、優しく接してくれた。
けど、僕には好きになってもらえるようなところなんてない。
こんな凄い人に、優しくしてもらっていいような人間じゃないんだ。
叶「そもそもこんな豪華で綺麗で素敵なところ、僕には場違いだったんだ。癒多の優しさに浮かれてはしゃいで…ホント、馬鹿みたい」
無意識に唇を噛んだ。
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