バイオレットの憂鬱

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張り出されているメニューを見ると、どうやらイタリア料理のお店のようだ。 「雑誌で取り上げられていて、1度来てみたかったんだ」 メニューを見る彼の横顔を見つめて疑問が沸き上がる。 「どうして、私と?」 こんなお洒落なレストラン、女の子だったら誰でも喜ぶはず。 ましてや、女子社員の憧れの的である藤原先輩の誘いなら。 私達の横を、ぴったり寄り添った恋人が通り過ぎ、レストランの中へと入る。 あんな幸せそうなカップルが似合うレストラン。 そんなところへ、私とどうして。 彼はまたあの笑顔を見せる。 「ルカは、俺とじゃ不満?」 ちら、と視線が絡まる。 ……反則。質問を質問で返さないで。 熱のあるような視線で私を見ないで。 その愛称で、今呼ぶなんて。 断る事なんか出来る筈無く、静かに目を伏せた。 「寒いし、入りましょうか」 理由を寒さに押しつける。 彼は満足そう。一瞬の間に私の中に否定を見たようだ。 自分の質問に対する答えを。 ドアを開けて私を先に入れてくれた。 こんなところも女性に人気があるんだろう。自分勝手な男性が多い中、さりげなく女性に紳士的に接するところが。
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