第0話:モノローグ

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.  憑依……  貴方達は、そんな言葉を御存知であろうか?  大抵は幽霊の様な実体の無い存在が肉体を得る為、生きている人間などに取り憑く行為を思い浮かべるのではなかろうか?  他にも意識が別の存在へと取り憑いて、自らの手足の如く動かすなんていうのも憑依と云える。  俺の場合は明らかに後者であろう。  俺は高校三年生となり、大学の受験も既に考えていなければならない一般人。  一般人──それが自他共に認める俺の評価、ずっとそう思っていたしその様に生きてきた心算である。  隣の家に、ちょっと脚を伸ばせば入り込める窓があって、其処が幼馴染みの女の子の部屋だなんてベッタベタなシチュエーションなんか無かった。  行き成り転校生と街角でぶつかった挙げ句に、教室で再会して『ああっ!?』とか叫んだ記憶も無い。  況してや俺の右腕に何やらおかしな存在が封印されているなんて、そんな邪気眼な話も皆無だし、突如として超能力に目覚めてしまったなんて事も無かった。  正に平々凡々、天下泰平な世界で普通に生きてきた17年だった筈である。  毎日が退屈で鬱屈したくなる程、代わり映えしなかったこの世界がよもや懐かしくなる日が来るなんて、俺は思いも寄らなかった。  なのに俺は遂に……そうなのだ、遂に越えてはならない境界線を越えてしまった様である。  中二なんて三年も前に卒業した筈なのに、今更ながら厨二病とか勘弁して欲しいのだが……  最初は夢かと思ったさ。  実は女の子になりたかったとか、女装趣味があるとかは絶対に無く、別に妄想を垂れ流す趣味も無い。  なのに俺は女の子、完膚無きまでに……だ。  俺が何を言っているのか解らないって? オッケーオッケー、自分でも実の処は理解していないのさ。  だけど、昨夜は早目に眠りに就いて朝起きてみたら吃驚仰天したよ。  見知らぬ天蓋が目の前に飛び込んできたんだから、驚くなってのが無理だ。  すわ、誘拐か? 何て思ったが一般家庭に生まれ、一般人に過ぎない俺なんぞ誘拐して、犯人にどんな得があるのかと思い直した。  眠っている間に移動させられたのは間違いないし、ゆっくりと身体を起こして辺りを見回せば、やっぱり見知らぬ部屋。  だから俺は思ったね。  きっと俺に惚れた物好きの女が、ヤンデレて拉致監禁してくれたのだ……と。  うん、叫んで良い? .
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