48人が本棚に入れています
本棚に追加
「ホント、有り得ない」
実際のMMORPGで、前作を遊んだ者やβテスターにはある程度の優遇措置はあったが、それも精々が初期武器フル強化──強化レベル三と上がり幅一だから攻撃力+三──と、特殊なアビリティやスキルなどが付いているくらい。
だがこれはそんなレベルなどではなく、改造コードで不正しなければ手に入る筈もない数だ。
まあ、これはゲームでないのだから当然だろうし、何よりもお姫様を送り出すのなら、これでも足りないのではなかろうか?
仮令中身が凍哉だとはいえど、肉体は間違え様もなくリリウム姫なのだから。
「明日、勇者レイの御一行が迎えに来る訳ですが……見た限りだと可成り好青年でしたよ? ユーリ、お姫様は何が気に入らなかったのですか? まあ、勇者の顔を見たのは初めてみたいですけど」
知識内に勇者レイの顔は存在をしておらず、完全な初対面らしい。
だけどせめて嫌がるなら顔くらいは見ておけばと、凍哉は首を傾げながらそう考えていた。
凍哉は男だから惚れたりはしないが、自分から見ても割と良さげなものだし、顔だけが全てでらないといっても、結局は第一印象など見た目から入るのだ。
「姫様の御心までは計り知れませんね。唯、どうしても嫌だと言われるのなら、私に否やはありません」
「メイドの鑑というべきなのか、諫めろよというべきなのか判断に困りますね。とはいえ、お陰で男の精神の私が男に抱かれるなんて悪夢、視なくて済むのですから文句はありませんが」
元に戻る方法が見付からずに、勇者御一行様が首尾よく魔王を退治した暁には勇者レイと……
『あ!』
なんて事に!?
「うわっ!」
想像をしたら寒イボが立って、背筋が凍り付くかの如く怖気が駆け抜ける。
「イヤァァァ! 男なのに出産はダメなのぉぉぉ!」
イヤンイヤンと頭を振りながら叫ぶ凍哉、ユーリはそんな彼を生暖かい視線で見つめていたと云う。
一頻り叫んだ凍哉もすぐに正気へと返り、再び姿見を眺めて下唇のすぐ下に、右人差し指で触れつつふと思い付いた表情となった。
「どうしました、ユーリ? 何か気になる事でも?」
「ええ、冒険に出るのに髪の毛が長いと剣士としては邪魔かな……と」
「姫様の美しい銀髪を切る心算なのですか!?」
「そうじゃなくてね……」
凍哉はさっさと髪の毛を纏め、鏡台の棚に入っていた白いリボンで結わう。
最初のコメントを投稿しよう!