第1話:憑依とTS?

29/29
48人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ
「リリアンナ姫様はいつもこうして姫様に髪を鋤かれては、ベッドで御一緒に眠られております」  それは確かめている。  お姫様の知識の上でも、彼女が甘えん坊な女の子だとあったのだから。 「若しかして朝までこの侭なの? そりゃ、勃たないというか勃つモノも無いですけど……う、言っていて悲しいです」  思わず泣きそうになる。  肉体が女の子であるのだから、勃つ訳もないのだがやはり虚しくなった。  やはり精神は男なのだ、凍哉という人間は。  こんな美少女に抱き着かれながらベッドの上に寝転んで、欲情すら出来ないのを悲しむ辺り…… 「お休み、ルナ」 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆  翌朝、目を覚ました凍哉はルナ──リリアンナと共に食卓に着いた。  昨日の朝は飽く迄も緊急避難的に部屋で摂ったが、本来なら普通に家族全員で食事を摂る。  そして迎えに来た勇者。  昨夜と同じ武装姿には、勇者といえど見惚れたみたいだが、全く嬉しくない。 「改めて、勇者を星霊より仰せ付かいました、レイ・スフィーリアです」 「翼人族が神官、ルイーナです。宜しく、姫様」 「闘士ダン、宜しく頼むぜ姫様」  勇者御一行様が次々と自己紹介をしてくる。 「フェリシス王国の第一王女……リリウム・フィーナ・フェリシスです。宜しくお願いしますね皆さん」  名前を名乗り全員と握手をし、お姫様の魅力を百パー引き出した笑顔を魅せる凍哉。  それを心配そうに見つめている国王のランドルフ、王妃であるアネリア、そして── 「お気を付けて、お姉様」  リリアンナ・ルナ・フェリシスだった。  この世界では王女が冒険者をするのは珍しい訳でもなく、中央大陸でも第二王女が冒険者らしい。  それが今回の説得成功の原動力となってはいるが、やはり心配なのだろう。 「リリアンナよ、無様でも何でも良いから無事に帰ってお出で」 「はい、お父様」  ならば旅立たねば良い、とんだ欺瞞だと思う。 「身体を厭いなさい」 「判りました、お母様」  だから、だけど…… 「行ってきます」  兎に角、精一杯の笑顔を偽物な自分が家族に向け、欺瞞と偽善の挨拶をした。  己れに対して自嘲して。 「ユーリ、そちらはお願いしますね?」 「はい、それは勿論ですよ姫様──トーヤ──」  ユーリは此方に残って、文献を調べる事になる。  そして凍哉は冒険に。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!