追想

9/13
前へ
/38ページ
次へ
―――ガラガラ。 少し錆び付いた音をあげながら、ゆっくりと引き戸を開ける。 「こんにちは。」 ドサッと、持ってきた大きなカバンを下ろしながら 静かな廊下に少し大きめな声で挨拶をしてみた。 「………。」 数秒待ってもなんの応答もないので、もう一度声を掛けようと唇を震わせる。 「すいませーん!」 さっきよりも気持ち大きめに奥へ声をかけると、"はーい"っと声が帰ってきた。 それからすぐに手前の障子がススッと開いて、中から見覚えのある優しそうな顔が出てきた。 「あらあら、いらっしゃい。早かったわねぇ。」 ニコニコと笑う顔はどこか父を思い立たせた。 「今日からよろしくおねがいします。」 「いえいえ、こちらこそおねがいしますね。」 ゆっくりとしたお辞儀につられるようにして俺も頭を下げた。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加