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その後、黙々と服をしまい、気付けば夕方になっていた。
窓に目を向けると外は真っ赤に染まっていた。
――綺麗だな。
こんな綺麗な夕日をみたのはいつぶりだろう。
どこを見るわけでもなく、俺はボーッとその紅い風景を眺めた。
そして窓辺に寄りかかりながらゆっくりと目を閉じた。
チリリンと風鈴の音がやけに大きく部屋に響く。
今にも途切れそうな意識の中で村の人らしき声が聞こえた。
「今帰りかい?もう暗くなるから気をつけなよ?」
別にどうでもない会話。
けどなぜか耳に入ってきてしまう。
「じゃあ気をつけて帰るんだよ、しずくちゃん。」
しずく…か。
遠くなる意識の中で少しだけその名に反応した自分が笑えてしまった。
「うん、さよならおじさん。」
その瞬間、俺はいきおいよく顔をあげた。
だって、今の声は…あの声は。
俺の一番大好きな、もう二度と聞きたくても聞こえるはずのない声だったから。
窓から身を乗り出して辺りを見回す。だけど辺りに人の気配はなくて、遠くからガラガラと車輪の音が聞こえるだけだった。
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