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「なんですか?これ。」
昨日、晩飯の後に呼ばれて居間に入るとお祖母ちゃんが座っていてその前の机の上に少し長い和紙と習字道具が置いてあった。
「まぁまぁ、座りなさいな。」
そうお祖母ちゃんに促されるがままに俺はお祖母ちゃんの向かい側に腰を下ろした。
何をするんだろう?
チラッと視線を向けると、お祖母ちゃんと目があい、慌てて視線を自分の手元に戻した。
一度伏せてしまった視線をまだ見られているかもしれないと思うともう一度上げる勇気がなかなか湧かない。
「…ひとつ、敬語は使わないこと。」
「え?」
思わず顔を上げると、お祖母ちゃんは口元を緩め、すらすらと和紙に何かを書いていた。
「ひとつ、お手伝いをすること。」
「……。」
何となくわかった気がする。
これはきっと、俺とお祖母ちゃんの約束事なんだと。
「ひとつ、帰りが遅くなるときは必ず連絡すること。」
まるで小さい頃の母さんみたいだ。
昔、母さんに耳にたこが出来るくらい言われたことがフッと頭を過ぎり、なんだか少し懐かしくなった。
あの頃はうん、わかった!なんて元気に返事をしていたけど、いつの間にか俺はその約束を破っていて、気がついた頃には
当てもなく街をぶらぶらしたり、原付バイクで適当に走ったりで深夜に帰ることもあった。
たまにそのことで母さん怒られて、次からはちゃんと連絡しなさいと言われても俺は昔のように頷かず、黙って部屋に戻ったりしていた。
あのときに母さんの顔は少し悲しそうだった。
きっと心配だったんだろうな。
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