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踏み出したペダルがやけに重く感じたのは、この胸に抱く小さな不安からなのだろうか?
ぐぐっと足に力を込めれば、まだどこか冷たい風が頬をするりと撫でていった。
俺達は病院への道程では一度も言葉を交わさなかった。
…いや、声をかけられなかった。
こんなにも雫のそばにいるのに、大事な時に何もできない自分。
もしかしたら、と最悪な事態を思い浮かべてしまっている自分。
やめろ、何を考えているんだ俺は!
すべてを振り切るかのように俺は、自転車のスピードをさらに上げたんだ。
少しして、信号に捕まりやむを得ず自転車を止めた。
本当は信号なんて無視してしまいたかった。だけど、後には雫が乗っている。
ゆっくりと息を吐くと、腰に回っている雫の手が目に入ってきた。
どちらかというと色白な雫の手が、今はなんだか少し青白い。
そっと触れてみると、ピクッと雫の手が震えた。
冷たい…。
きっと俺が飛ばしすぎたせいだ。
いつもは暖かい彼女の手が、冷たい風で冷え切ってしまっていた。
彼女の手の上に自分の手を重ねるとじんわりと彼女の手の冷たさが伝わってくる。
「…ごめんな。」
ぽつりと出た言葉が何に当てたものかは自分でも分からない。
雫も何も言わなかった。
そして、信号は青に変わった。
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