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深い灰色の空から滲み出たかのような雨粒は驚くほど冷たく、重たい。
ぱしゃり…ぱしゃり 、と足に絡みつく雨水のせいか足取りも重く感じる。
赤信号に捕まって、ふと何気なしに母さんの顔を見ると、ぼうっと赤信号の方を見ていた。その表情がどことなくあの時の雫の表情と重なったような気がした。
母さんと同じようにどこか遠くを見つめるあの時の彼女の目はまるで人形のみたいに無機質な光を放っていた。
何度呼びかけても応えず、結局最後まで視線が合うことはなかった。
その日以来、今日まで雫には会っていない。いや、会えなかった。
あの後も何度か家に行ったが留守なのか誰も出てくることはなかった。
どこか薄暗くなった、あの家を見上げた時に感じた確かな不安。
今も体中に絡みついて離れないのはきっと、雫がいないから。
もし、雫があのまま…
もし雫がずっとあのままなら俺は
「陽太?」
ハッと前を見れば、信号は青に変わっていて、母さんと父さんが心配そうにこちらを見ていた。
「…ごめん」
なんでもないと走って2人の下へ駆け寄った。
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