ホッカイロ

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「じゃあ私、教室戻るわ」  椅子から立ち上がり、ブレザーを抱える。 「え?」 「あんた、体操着に着替えたら?」  ぽん、と加賀の肩を叩く。手のひらが濡れた。 「じゃあね」  ひらひらと手を振り、保健室を出る。ドアが閉まる直前に、 「え、わ、悪かったな」  歯切れの悪い言葉が聞こえた。思わず「どういたしまして」とつぶやく。ドアは閉まっているから、届かないのに。 「さむー!」  私はブレザーを羽織る。袖は通さなかったから、ぶらぶら揺れる。ブレザーが茶色なら寅さんごっこがてきたな。 ――さて、職員室に行って、先生を呼ぼうかな。私ってばいい人だから。  ぶるぶる震える体を抱きしめ、保健室の先にある職員室へ向かった。
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