ホッカイロ

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 寒い寒い雪の日。一昨日降った雪は積もったままツルツル滑りやすい氷になった。私は白い息を吐きながら、学校に行く。 「おはよう」  誰もいない教室に挨拶をする。もちろん返事はない。我ながらバカなんじゃないかと思うけれど、もう日課になってしまった。朝、教室に入るときにはまず挨拶。 「……さむっ」  窓際の席にカバンを置く。窓は白く凍っている。そりゃ寒いわけだよ、私は教卓のそばにあるストーブをつけた。  ブォォン  少し臭いにおいのあと、ボッと点火する音。私はカバンの中から新しいひざ掛けを出して足に巻いた。ドット柄の真っ赤なひざ掛けは、赤く染まった私のひざをあたためる。 「ううっ」  足をばたつかせ、少しでも寒さを和らげようとする。バタバタ、小さな埃が宙を舞う。 「おはよう」  やっと温まってきたかというところで、教室のドアが開き熱風は廊下へ逃げる。 「……おはよう」  少し不機嫌な声で、挨拶を返した。教室に入ってきたのは、加賀洋介。イニシャルKY。本当に空気読んでよって感じ。  加賀は教室のドアを閉めると、私の横の席にカバンを置いた。そう、彼は私の隣の席。インテリなのかは知らないが、ノンフレームのメガネをし、真っ黒の髪を整えもしないでボサボサの、いわば流行遅れのひと。おしゃれという言葉からは程遠い。 「……水野」  私はストーブからぴったり離れず、加賀のやけに低い声に耳を向けた。話しかけられたの、初めてに近い。 「なに」  戸惑いながら返すと、加賀は困った声で言う。 「焦げ臭い」
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