ホッカイロ

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   *  ピピピピという機械音に、脇に挟んだ体温計を取り出す。 「38.7℃」  数字を見て、更に具合が悪くなった。 「寝ても治ってないなんて」  白い天井がぼやけて見える。せっかくの土曜日が、寝るだけの1日になることは確実だ。 「有希、ご飯食べられる?」  母さんが部屋に入ってくる。 「うわ、足の踏み場もない」 「動けないだもん」  部屋中に散らばるのは漫画や絵本に、使わなかった入学願書。 「もう高校生になるんだから、片付けなさい」 「元気になったらね」  パジャマの袖で額の汗を拭う。 「熱、下がった?」 「38℃」 「高いわねー、病院行ってきなさい」 「午後行く」  母さんは枕元にカットしたオレンジを置いていく。 「母さんはこれから仕事だけど、何かあったなら電話なさい。病院代、リビングに置いていくからね」 「うん」  私は体を起こし、オレンジを口に含んだ。みずみずしい果実が、乾いたのどをうるおした。
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