ホッカイロ

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「ごめーん!」  急いで立ち上がり、加賀に駆け寄る。お気に入りの膝掛けには、黒い穴が開いていた。少し泣きたくなった。 「悪気はなかったの」  ばさ、加賀をすっぽり隠した膝掛けをどける。 「わかってる」  加賀は本を読む姿勢のまま――たぶん膝掛けをかけられてもずっと同じ格好で――いた。 「それなら良かった」  はは、と笑い、またストーブの近くへ行こうとする。 「水野」  パシ、腕をつかまれる。びっくりして、心臓がドキッとなった。 「なに?」  ゆっくり振り返る。 「あげる」  手のひらにあたたかなものを握らされた。手を開くと、 「ホッカイロ」 「ストーブは近づきすぎると危ないから」  そう言ってはにかむ加賀の表情が、なんだかかわいかった。
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