視線の奥

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しばらく大通りを走らせて「どの辺りですか?」と聞いてきた。 「Gの交差点はわかる?」 「角に大きな本屋がある交差点ですよね?」 「そう。Gから歩いてすぐだから交差点で降ろしてもらえるかい?」 「わかりました。10分くらいで行けると思います。」 「悪いね。」梨香の友人の千秋。梨香と同学年だということは27歳か。それにしては落ち着いている。老けているということではない。むしろ整った顔や服装は梨香よりも若々しいし、下手をしたらまだ学生で通りそうだ。この子が協力してくれたら、もっと梨香と会いやすくなるのに。 すーっと静かにブレーキがかかって、車が止まる。歩道に出て、ドアを閉める。 「わざわざありがとう、助かったよ。」 「お気になさらずに。」運転席から聞こえた。 「今度、3人でゆっくり話せないかな。」助手席に座っている梨香が目を伏せるのが視界に入る。 「・・・それは、必要なことですか?」彼女は少し考えてから冷静な声で言った。 「俺にとっては、必要。」 「そうですか。早いほうがいいですか?」梨香の頭を挟んで会話が続く。 「できれば。」 「わかりました。平日のほうがいいですね。」 「構わないけど、何か理由があるの?」 「わかりませんか?」 「うん。」 「わからないならいいんです。」やたらと落ち着いて話す様子が少し鼻につくが、今は従っておこう。味方につけてしまいたい。バッグから手帳を取り出して、予定を確認している。途中、梨香にも都合を確認しながら今度の木曜日にN駅で待ち合わせをすることに決め、降ろしてもらった交差点から自宅のアパートに着くまでの少しの間に、俺は千秋をどうやって操るか考えていた。
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