視線の奥

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「ゴメンね。」車の中でようやく口を開く。 「何に対して?」 「迎えにきてくれたこと。」 「違うでしょ。」 「違わないよ、悪いと思ってる。」 「・・・。」いつも人の目を見てはなす千秋がさっきから私のほうを見ないのは、運転のせい? 「ごめん・・・。」 「だから何に対して謝ってるの?」 「・・・。」 「梨香はね、あたしに謝ることでハルにも謝ってる気になってる。」 「違っ。」違う、私は千秋に謝ってるよ。 「梨香。離婚したいって言ったって、あんたはまだ結婚してるんだよ。人の色恋に口挟みたくないけど、独身のときと同じように恋愛してちゃダメだと思う。」信号待ちで止まった車内、ハンドルに片手をかけたまま千秋が私の顔を見た。 「・・・うん。」見ないで。千秋の目はいつも深い色をしていて、心の底まで読まれそう。お願い、見ないで。結局、家の近くまで送ってもらった車の中、最後まで何に対して謝っていたのか千秋に説明できなかった。千秋に言われたとおりだったから。
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