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「もしもし?」
「千秋、久しぶり。元気だった?」電話口からは裕美の声に混ざって、忙しそうな音が聞こえてくる。
「ゴメン、忙しいのに。」裕美は大企業で働くバリバリのキャリアウーマン。
「大丈夫。何時くらいにかけてくるかメールくれたから、都合つけやすかったよ。で、何かあったの?」
「梨香のことなんだけど。」お互い忙しい身なので、すぐに本題に入る。
「梨香がどうかしたの?」
「またあの上司と会ってる。」
「まだ繋がってたの?」短く息を吐いたのがわかる。
「うん。でね、この間迎えに行ったの。」
「それって相手もいるところにってこと?」
「そう。」
「はは、すごいね。」裕美は面白がっている。今度3人で会うことになったということや、ハルになんて言っていいのかなどを相談する。
「でもさ、アキハル君もわかってるんでしょ?」
「浮気のこと?」
「いや、千秋は本当のこと知ってても話さないってこと。」
「あぁ、多分ね。」わかっていても、人に否定してほしいときもある。
「ま、どうなるにしてもさ、千秋から言わないほうがいいよ。やっぱり本人たちの問題だから。」
「そうだよね。裕美も何も知らなかったって言っとく。ありがとう、聞いてくれて。」
「お安い御用よ。」
「じゃあ、またね。体に気をつけて。」
「千秋もね。」
体に気をつけて。裕美との電話を切るときは必ず言う。大企業で働く裕美はつい頑張りすぎて、年に2回は体が悲鳴をあげる。そんな裕美を病院に引っ張っていったり、一人暮らしの彼女に食事の差し入れをするのは、時間に自由が利く物書きのあたし。あたしたち、学生のころから変わってないよね?
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