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仕事部屋で裕美に電話をかけていたあたしは、ノートパソコンでソリティアを始めた。気分を落ち着かせるにはこれが一番いい。手元においてあったマグカップを口に運ぶ。
「まずい。」冷め切った紅茶は渋く、喉に落ちるのに時間がかかる。部屋を出て、キッチンで新しく紅茶を入れなおす。ハルに電話しなくちゃ…。また部屋に戻って、ソリティアをやりながら片手で携帯を握り締めた。
ハル、ごめん。あたし、本当は梨香が浮気してるって知ってるんだ。あたしはハルと友達だと思ってる。でもあたしにとって梨香は親友なの。あんたの幸せより、梨香の幸せを望んでる。ハル、あたしはあんたに嘘をつく。すぐバレるってわかっていても、あたしはあんたに嘘をつく。
梨香、梨香は気づいてるんでしょ。あたしがハルに嘘をつくこと。学生の頃から何も変わってないね。2人に何かあったらハルがあたしに頼ってくることも、その度にあたしが嘘をつくことも。今度3人で会うときにきっと藤原さんはあたしに味方になってほしいと言うと思う。梨香とハルを比べたら梨香をとるけど、ハルと藤原さんを比べたら間違いなくハルをとる。このこともあんたはきっと気づいてる。そうでしょ、梨香。
熱い紅茶に口をつけソリティアをやりながら、携帯でハルの番号を探す。携帯が耳に冷たく張り付いて、コール音が鳴り出す。出ませんように。出なければ、あたしは嘘をつかずに済む。
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