乾いた心と水

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電話を切ってフッと笑ってしまう。当たり前のように『旦那のゴハンするから』って言うのな。カラッとした性格をしているのに、妙に家庭的なところがある千秋。学生の頃に梨香の家でゴハンを作ってもらったこともあった。千秋の作る料理は母さんの味によく似ていて、そう言ったら料理が苦手な梨香にひどく怒られたんだったな。 「すぐ温まるからね。」そう言いながらキッチンに入る。 「電話、切っちゃってよかったの?」 「ハルだったから。ほら、梨香の旦那。」 「旦那から?珍しいね。」 「もうヤバイかも。」夫、寛太のほうに振り返りながら顔が歪む。 「・・・。」寛太は仕事着のまま何も言わずに食卓に着いた。 仕事の話や今日あったことを話しながら二人で食事をしていると、ブブブブブ…と携帯が震え始める。あたしは食事中、携帯に触ることはない。携帯を持ち始めた高校生の頃から、家族にも彼氏にも『料理が冷めるのと一緒に、あたしの気持ちも冷めていく。』と言ったくらいだ。仕事用と私用を分けておらず時間に関係なくお客から電話がある寛太には一度も強要したことはないけど『ゴハンくらいゆっくり食べたい。』と言ってくれた優しい旦那。訳あって披露宴をあげなかったあたしたち。二人で撮った和服の写真を見ると未だに照れくさい。 「どうしたの?」不思議がっている。 「あの写真、恥ずかしいなと思って。」 「もう3年も前じゃないか。」笑う寛太が水を飲んだ。
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