315人が本棚に入れています
本棚に追加
鞄一つ分の距離を隔てて、私たちは並んで歩く。
「おばさん、なんか言ってたの?」
「なんで?」
「心配するようなことはないって、リンが言ってるの聞こえたから」
「あ、うん。昨日塾休んじゃってね、で、勉強付いていけるかとかそーゆー話。」
本当のことを言って、ゆうくんがどうにか出来るわけじゃないから。仕方ない。
小さいころ、意味もなく、すずって名前をからかわれて以来、
私のことをリンって呼ぶ、世界にたった一人の人、ゆうくん。
「鈴のなまえ!ほかによみ方あるんだって!しらべたんだ!
だからもう、鈴じゃないよ!リンって呼ぶからさ、だから落ち込むなよっ」
ゆうくんが名前を呼ぶたびに、優しい人だなって思い出す。
おっきな辞書を抱えて、走ってくるちっさなゆうくんを思い出す。
だから、「彼氏になりたい」って言われたとき、
「いいよ」と答えてしまった。
反対する理由を思いつかなかった。
守ってくれるタイプの男の子だから、
そういう人が彼氏になるもんだと思ったから。
最初のコメントを投稿しよう!