都合の良い女

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「その箱の中身、何?」 優しく落ち着いた大人の男性の声。 私はそれに安らぎと、小さな悲しみを覚えるの、いつも。 「……秘密」 張り付けた笑顔でそう返した。 言える訳が無い。 中身は大人の玩具なのだから。 私はまだ二十二歳、彼は三十八歳。 はっきり言って私は欲求不満。 "気味"と言う言葉が付かない程に不満。 彼は元々、性欲が薄い人で、年を重ねて余計に薄くなった様に思う。 心が繋がっていれば良い。 そうも思うけど、自然とやはり身体も繋がりたいと思ってしまう。 それは不自然な事かしら? 「……いつもその箱の事だけは教えてくれないね」 そう彼は苦笑した。 そして苦笑する彼に私も苦笑で返す。 「これは私の隙間を埋めてくれるものなの」 欲求不満。 かと言って、彼以外の人と肌を重ねるのなんて絶対に嫌だし、彼にその行為を求めるつもりもない。 それに、彼にはしたない女だと思われるのも、嫌われるのも怖かった。 「私には言えないようなものが入ってるんですか……?」 その問いに私は曖昧に笑う事しか出来なかった。 彼はただ泣きそうな顔で笑う。 「今は貴女の側に居たくありません。ごめんなさい……」 彼は立ち上がり、何処かへ行った。  
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