0人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
自宅に戻っても、誰も居なかった。
嗚呼、彼女はまた逃げようとしてる。
やるせない気持ちを抑えながら、彼女に戻って来て欲しいとメールを送った。
半日もすれば今までの経験上、帰って来るのは解ってる。
それでも、彼女を探さずには居られない。
私は再びコートを手に持ち、部屋を出た。
苦笑しながら呟く。
「折角の休日なんだから、デートでもするんだった……」
彼女は、帰って来なかった。
何処にも居ない。
電話を掛けても通じない。
私は彼女が居ない時間と比例するように仕事に打ち込んだ。
何も考え無いように、仕事に逃げたのだ。
彼女が居なくなり、一つの季節が過ぎ去ろうとしていた。
その日丁度私は休日で、部屋で一人、彼女が残して行った鍵の着いた箱を眺めていた。
来訪を告げるのどかな音が鳴り響く。
立ち上がり、玄関を開けた先に居たのは見知らぬ中年女性。
女性は私の名を確かめ、何処か悲し気に微笑む。
「取り敢えず汚いですが中へどうぞ……」
お茶を出し、テーブルを挟んで彼女の正面に座る。
「私、こういう者です」
そう差し出された名刺。
慌てて私も名刺を取りに行こうとすると、女性に止められた。
「先ず、二ヶ月も遅れた事を御詫び致します。保険等でどうにも時間が掛かってしまい……」
私には何の話なのか全く解らなかった。
最初のコメントを投稿しよう!