都合の良い女

5/9
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
自宅に戻っても、誰も居なかった。 嗚呼、彼女はまた逃げようとしてる。 やるせない気持ちを抑えながら、彼女に戻って来て欲しいとメールを送った。 半日もすれば今までの経験上、帰って来るのは解ってる。 それでも、彼女を探さずには居られない。 私は再びコートを手に持ち、部屋を出た。 苦笑しながら呟く。 「折角の休日なんだから、デートでもするんだった……」 彼女は、帰って来なかった。 何処にも居ない。 電話を掛けても通じない。 私は彼女が居ない時間と比例するように仕事に打ち込んだ。 何も考え無いように、仕事に逃げたのだ。 彼女が居なくなり、一つの季節が過ぎ去ろうとしていた。 その日丁度私は休日で、部屋で一人、彼女が残して行った鍵の着いた箱を眺めていた。 来訪を告げるのどかな音が鳴り響く。 立ち上がり、玄関を開けた先に居たのは見知らぬ中年女性。 女性は私の名を確かめ、何処か悲し気に微笑む。 「取り敢えず汚いですが中へどうぞ……」 お茶を出し、テーブルを挟んで彼女の正面に座る。 「私、こういう者です」 そう差し出された名刺。 慌てて私も名刺を取りに行こうとすると、女性に止められた。 「先ず、二ヶ月も遅れた事を御詫び致します。保険等でどうにも時間が掛かってしまい……」 私には何の話なのか全く解らなかった。  
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!