都合の良い女

8/9

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
そっと携帯を手に取り、中を見た。 メール受信フォルダは私のメールだらけで、全て保護されていた。 思い浮かんだのは、いつも携帯を幸せそうに見詰める貴女の横顔。 そして次に思い出したのは、自分の本当の願い事を決して口にしなかった貴女の事。 まだ付き合っていた時、私は彼女に何か言わなかったか、性に関する事で……。 殺してやりたくなった自分を。 『子どもは欲しいとは思えません。それに私は渇れてますから……』 『いつか子どもが欲しいと思えたら良いね』 『……貴女と心の繋がりがあれば私は充分です』 だから彼女は何も言わなかったのだ。 私は見て見ぬふりをして来たのだ。 ピルを飲む彼女の後ろ姿を。 箱を抱えて自室に戻る、彼女の横顔を。 おやすみなさいと言う、彼女の笑顔を……。 そっと玩具を手に取った。 彼女が望むものは全て与えようと思っていた。 彼女に苦労はさせないと誓っていた。 なのにこの結果はどうだ……? そっと舌を伸ばし、玩具に触れる。 彼女の涙の味がした……。 END.
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加