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『浮砲台として砲撃していた回天(旧幕府軍軍艦)が市街地を制圧していた新政府軍の攻撃を受けて…!』
『それで…無事なのか?彼等は?
落ち着いて話してみろ』
戦の恐ろしさで我を忘れているのか兵士は、混乱しているようだった。
『大丈夫だ…
ここには敵はいない』
そんな兵士を一喝する訳でもなく、土方さんはただ優しく兵士に語りかけるのだった。
まるで赤子をあやすかのような…優しい眼差し。
私は文献で読んだ通りの彼に少し驚いてしまった。
『はい…。
新井様等回天組は、攻撃とともに船内からの脱出を試み、一本木浜を目指したのですが…
七重浜方面に展開していた新政府軍がこれに上じて、我々の上陸を阻止すべく進軍してきました』
『……何だと…?
チッ…どこまでもしつこい奴等だ。
邪魔な芽は徹底的に潰しておく…か
』
ドサッ
土方さんは軽やかに馬に乗った。
『どこへ?』
恐る恐る声を出す。『当たり前のことを聞くな。
ここいるわずかな兵を率い、一本木浜に援護に向かう。
七重浜から進撃するなら、こっちは迎え撃つだけのこと。
やれるだけのことは全てやる。これが俺のやり方だ』
何て凄い人なんだろう
と率直に思った。彼は戦うことを恐れない。
常に前を見据えている。
だけど、彼を見ると誰かを守るためならばいつ自分が死んでもいいといっているような気がした。
死を望んでいる…?まさか、そんな…。そんなことを考えていると、
『お前はどうする?
いや…俺についてこい』
強引に手をひかれ馬に乗せられた。
『どこにいても危ないのは同じだが、戦場で敵に女が生きて捕われるということだけはさせたくない…
敵に捕われた女に待っているのは生ではない。死だ。
敵方にいいように扱われ辱められる…そんな思いはお前にさせたくない』
土方さんの言葉を聞いただけでゾッとした。
辱められる…
所謂、今の時代で言うレイプだ。
そう。戦争の犠牲者はいつだって女と子供なのだ…
文献で読んだ。
会津では敗戦後の乱取り(戦国時代同様の女駆りや物品を奪うこと)が酷かったらしい。
だけど、私を背に馬を走らせるということで土方さんは不利になる。
私は重荷だ…
ごめんなさい。
自分は無力だ。
尊敬しているなんていっていても戦場では私は何もあなたの力になれない。
あ…でも鉄砲だったら私も容易に扱えるかもしれない。
あなたの…力になりたい。
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