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「じゃ、朝食の支度しておくから」
隣で歯ブラシを口の中でわしゃわしゃしている姉を横目に俺は口を濯ぐと、洗面台にコップと歯ブラシを置き、階段の方へ向かった。
「あいよ。……あれ、今日はあんたが当番だっけか?」
「違うけど。まあ、俺のが早く起きたし、歯も磨き終わったし」
「おろろ、すまんね。ありがと、りゅーちゃん」
「姉弟は」
「互いに互いを思いやるべし」
いつもの合言葉。何かあれば合言葉。
忘れないために。俺達の根っこを、基本を、在り方を、忘れないために。
一階に降りた俺は冷蔵庫を開き、中を物色する。
大したものは入っていない。
寂しい冷蔵庫だ。
俺は残り6個の生卵のうち二つを取り出し、今度また買い足さないとな、なんて考えながら更に袋に入ったウィンナーとハムを取り出し、冷蔵庫を閉じた。
ついでに、棚から食パンも二つ取り出しておく。
食パンの残りもあと3枚。
さて、そろそろピンチか。
フライパンに油をしき、火を付けながら俺は口にした。
「俺は不幸だ」
きっと、世界にはもっと不幸な奴らが沢山いる。
俺が抱えている不幸なんて、鼻息で吹き飛ばせるくらい、巨大な不幸を抱えた奴らがごまんといる。
だけど、俺にとっての世界はちっぽけなもんで。
それこそ、この町の外はおろか、日本以外の国の不幸なんて、俺にとっちゃ三流のファンタジーと変わらないくらい非現実的なものなんだ。
つまり、俺にとっちゃ関係のないことなんだよ。
だから、俺は不幸だ。
俺は俺のちっぽけな世界の中で、十分に不幸だ。
俺にとっての世界がここである以上、その他の世界なんて関係ない。
この世界で不幸なら、俺はきっと不幸だ。
生まれた時から籠に飼われていた鳥が、自分の不幸に気づけないように。
俺は自分が仮に幸福だったとしても、きっと、絶対に、気づけない。
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