プロローグ:花びらのない花

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「準備出来た?」 朝食を済ませたら、支度をして登校準備。 既に靴を履き終えている我が姉を追うように、俺も鞄片手に玄関へ向かう。 「姉ちゃん」 「ん?」 「制服持った?」 「勿論よ」 「なら、いい」 制服。 学校の制服は着込んでいるのに、これ以上何の制服を持っていくかって? 決まっている。バイト先の制服だ。 今日は姉の番。因みに昨日は俺の番。 平日は一日交代。土日は二人で出勤だ。 「じゃ、行ってきます」 「行ってきます」 返事があるはずもない我が家に向かってそう出掛けの挨拶をすると、俺と姉ちゃんは並んで外へ出た。 もうずっと、母さんから『行ってらっしゃい』の言葉を聞いていない。 聞くつもりもない。 夜勤で疲れている母さんには、少しでも長く休んでいてほしいから。 「いー天気ねえ」 「そうかね」 「あら、こんなに晴れているのに」 通学路。 車道沿いを歩きながら、姉ちゃんは空を見上げながらそう言った。 雲もあまりなく、太陽はサンサンと輝いている。 いい天気ではあるが良い天気ではない。 「暑いと、体力が奪われるからな」 「曇りのが好き?」 「まあな」 「暗いわねえ、りゅーちゃんは」 別に、曇りが好きなのは普通じゃないか。 暗いのは、否定しないが。 「そうそう、聞いたわよ」 話題変更。 姉ちゃんが何かを思い出したのか、ぽんと手を叩いて話を振る。 「あんたのクラスに、転校生が来るんだってね」 「そうらしいね。……って、学年の違う姉ちゃんが、何でそんなこと知ってるんだよ」 「愛弟の身の回りのことは全てチェックしてるからね」 「ストーカーかよ」 「あ、りゅーちゃん最低」 転校生。 実のところ、今姉ちゃんに指摘されるまで、俺はそんなものの存在は完全に頭から消え失せていた。 興味なし、関係なし、必要なし。 気にするのは、出会ってからでいい。 出会って、そいつがどんな奴か知ってからで。 まだ見ぬ人間に想いを巡らせるほど、俺には余裕がないのだ。
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