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『おい……』
『!ッッ…ん?だ、誰?』
『起きろ猛ッ、いつまでも寝てんじゃねぇぞ!』
『その…その声はまさか…まさか藤谷…さん?嘘…大人になってる…』
『猛ッ、お前に頼みがあんだ。』
『僕に…頼み?』
『俺さ、もうすぐ生まれ変わるつもりなんだ…』
『生まれ変わるぅ?意味解んないんだけどどういう事かな?』
『お前にしてほしい事あんだ。お前俺に逢いたいだろ?』
『逢いたい逢いたいめちゃくちゃ逢いたいよ藤谷さん!』
『ったら協力しろ…』
『どうすればいいの?』
『抱けよ…』
『はぁ?ちょ、ちょっと待ってよ抱けって藤谷さんを?』
『俺を抱け!したら俺はまたこの世に輪廻転生、生まれ落ちる。いいな!』
『いいなっつったって存在のない人間をどうやって…』
『馬~鹿、ンナ事ぁ自分で考えろ!じゃな!』
『あッ、ちょっと待って藤谷さん!もう少し顔を見せてよッ、大人になった藤谷さんの顔を!』
『猛……好きだぜ…』
『ふ、藤谷さん…僕も大好き…大好きで大好きで…』
ガバッ!
けたたましい目覚まし時計の音が静かな部屋に鳴り響いた…猛は汗だくで布団から跳び起き我に返った。
(ハアッハアッ…ゆ、夢かぁ…何ちゅう夢だ…ハアッハアッ。)
猛は台所で水を一杯飲み干すと明け始めた薄暗い窓の外に視線をやった。
『藤谷さん……』
夢にまで出て来るとは相当重症だ。猛は一度深いため息をはくとヤカンを火にかけた。朝の冷ややかな空気はもう初冬の訪れを告げていた。
(抱け…カァ…何て大胆な…死んだ人間をどうやってこの世に呼び戻すってんだろ。藤谷さんが僕の目の前に現れてくれるなら僕何だってするけど。)
猛は頭をクシャクシャとかきながらインスタントコーヒーの粉をマグカップに入れた。
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