136人が本棚に入れています
本棚に追加
仕事で身体が疲れた時癒されたくなる気持ちは人間の本能なのか、久しぶりに交代夜勤から開放された猛の足は自然とクラブ《パヒューム》に向いていた。
『いらっしゃいませ、あら先生!』
エレベーターホールに降り立つと猛は店の前で常連の誰かに貰った花の束を花瓶にいけていたクラブのママ、美樹に出会った。
『お、覚えてくれてたんですか僕の事…』
『一度逢ったお客様の顔は忘れたりいたしませんわ、ささどうぞ中に。』
黒いスパンコールのワンピースを着た美樹は猛を店内に招き入れた。
『なかなか雰囲気のいい店だったんでまた来たいなって…ハハハ、けど忙しくて機会がなく…』
しどろもどろになりながら猛は美樹に言葉をかけた。
『あらまぁそれは誠に有難うございます。』
美樹は綺麗なウナジを見せつけるかのように猛の前を整然と歩いた。
『で今日はいかがいたしましょう?』
『え…はぁ?』
『…ご指名の方は…』
あっ!と会話を飲み込めた猛はこないだの方は居ますかと美樹に尋ねた。
『あぁ確か穂乃ちゃんでしたよね、大丈夫です…こちらへおかけになって暫くお待ち下さい。』
紫のソファーのような椅子に腰掛け辺りのお洒落な雰囲気を眺めると猛はやはり自分は場違いな場所にいるのだと痛感していた。
(しかし結構客入ってるよな。世間は不景気だってのに此処は別世界。まぁ変にボッタクらない良心的な店だからこうして繁盛するんだろけど…)
猛は穂乃を待つ間テーブルの上のおつまみのピスタチオに手をやると殻ごとかじった。
『やだそれは殻を割って食べるんですよ先生ッッ!』
『!ッッ、あ…ググ…』
声をした方向を慌てて見るとそこに髪をアップに束ねシルバーのドレスを纏った穂乃の姿があった。
『先生も冗談なさるんですね、ウフッ』
(あ…マジだったんだけど…)
最初のコメントを投稿しよう!