〓鏡の中の藤谷若菜〓

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『あれからなかなかお店に来られないから心配していましたわ。改めてご指名有難うございます…《穂乃》でございます。』 穂乃は胸元から薔薇の絵柄のお洒落な名刺を差し出した。 『あ…ども、高橋ですッッ!え~と名刺は…』 『ウフッ結構ですわ先生ッッ、もう存じ上げておりますから。』 穂乃はグラスに氷を入れながら慌てる猛の姿を見て上品に笑った。肩から伸びたその二の腕~指先のラインに猛は思わず息を飲み込んだ。 『お仕事大変なんでしょ?お勤め時間も不規則でしょうし…』 『あ、アハハ…まぁ…ハハハ。』 (前に見た時より更に色っぽくなってるみたい。キュートだなぁ…僕どうにかなりそう。) 猛は水割りのグラスを通しチラチラと見え隠れする穂乃の胸元に視線をやった。 『やっぱり何処かで逢った事あるんですよね~穂乃さん。』 『あ~またその話ですか?ウフッ。』 穂乃は猛の空になった水割りのグラスに手際よく次のウイスキーを注いだ。 『似たような顔の人は日本中いくらでもいますわ、高橋先生って意外と神経質?カナ?アハハ。』 『あ…い、いやすみません僕は別に…ハハハ。』 あまりこの話題には触れない方がいい、猛は即座に判断した。猛は暫くの間穂乃と日常の出来事や芸能スポーツ界の話等でひと時の楽しい談笑の時間を過ごした。穂乃といる時猛は自然と心が落ち着いている自分に気が付いた。佐里のような突き放した刺々しさも嫌いではなかったが逆にこんな穏やかで包み込むような優しさも満更悪くはない、猛がこれまで味わった事のない女性の優しさの形でもあった。 『有難うございました、おかげで日頃のストレスがまた吹っ飛びました。』 帰り際猛は見送りに出た穂乃に何度も頭を下げた。 『こちらこそ…先生と話していると私も自然に素直になれます。』 『ほ、本当ですか!アハハ…』
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