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猛の勤務が定時に終わったのはそれから一週間後の事だった。猛は医局のロッカーで私服に着替えると昨夜穂乃と待ち合わせを約束した渋谷窪内公園の噴水前にタクシーで向かった。
『あ……ども』
『高橋先生ッ、アハハ…すみませんお寛ぎの予定の所わざわざ。』
公園の噴水前で猛は濃紺のニットのセーターにジーパン姿の穂乃に手を振られた。
『店で見る時とまた全然雰囲気が変わりますね!』
『お洒落じゃないでしょ?恥ずかしいです、化粧も薄いですし…』
『いえとんでもない、ラフな格好の穂乃さんもまた…』
素敵ですという言葉がどうしても続けられず猛は言葉に躊躇した。店では長い髪を頭上で束ねエレガントな気品を醸し出している穂乃だが普段の穂乃は栗色の長い髪をそのまま投げ出しカジュアルな出で立ちでいた。そんなナチュラルな穂乃もまた新鮮で素敵だと猛は思った。
『ご飯まだなんですよね?この近くに美味しい河豚鍋のお店があるんです。予約しておいたんですが大丈夫だったですか?』
『何から何まですみませんッ、僕がそういう事しなきゃならないのに…』
『何言ってるんですか、お誘いしたのは私なんですからこれくらい当然です!』
穂乃は髪をかきあげ一度微笑むとこちらですとゆっくり歩み出した。
(綺麗だな穂乃さん…幾つくらいかな。)
駄目だと思いながらも猛の視線は穂乃の形のよい小さなお尻に落ちていた。
(ダァーッんな事で鼻の下伸ばしてる場合じゃないってぇの!)
スクランブル交差点を渡り終え二人は小さな商店街の外れにある鍋料理専門店【むさし】に入った。
『ここのオーナーがうちのお店の常連様でよく接待に使わせてもらうんです。』
『そうですか…いい店です。』
穂乃と猛は【むさし】の店内へと入って行った…
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