ラクリマの夜

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今日は、クリスマスイブですよ。こんなところにいる場合なんですか? 「あーあ、こんな歳になっても、同僚と飲むくらいしかやることないって悲しいよなあ、なあ、そう思うだろ?」 僕の声が聞こえたかのように、男はべらべらとしゃべりだす。なるほどなるほど、三十路くらいのこの男は、一人身、ね。 僕は不意に隣を見た。いつの間にか、小さな水溜りに雪の塊。数時間前までは、僕の子どものようによりそっていたのに。 「はあ~~~」 男の白く酒臭い息が僕の顔面にはかれる。 「とにかく!俺は帰る。うん、じゃあ、また明日な!メリークリスマス!!」 勢いよく立ち上がり、ふらつきながら無駄にでかい声をあげる男は僕にむかって、こんな状況で、また明日、なんて言った。 今僕はまさに空襲をうけているようなものなんだ。まいっちゃうな。そんなことをお構いなしに、ぬれた頭を左右に犬みたいに振ってその爆弾を容赦なく僕に飛ばしてくる男。彼も僕にしかそんな言葉を言う相手がいないなんて、ちょっと不憫。
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