嵐の後に

41/41

19288人が本棚に入れています
本棚に追加
/780ページ
依存すれば、弱くなるという理論もある。 だが、それは人によりけりだ。 依存するものがなければ、力を失うものも存在する。 依存することにより、力を得た者はリオンである。憎しみに依存する事によって強くなったのだから。 「相談役くらいにはなれるだろう。紅蓮の焔を扱う事は出来ずとも」 「……ここでその話をするか」 「その説明もしておらんのか。あきれ果てた奴だ」 「教える必要がないだろうが。使える訳でもない力についてなど」 「そこが馬鹿なのだ。可能性を示唆しておけば、更に高みを目指す事が出来るでは無いから」 ヘルの言葉に口をつぐむウルカヌス。 やがて溜息を吐くと、ファイに向かって説明を始める。 「いいか、お前は未だ俺の力を使う事は出来ない。理由は未だお前が弱いからだ。俺の力は使い手の魔力を多量に消費し、尚且つ肉体に多大な負担をかけるからだ」 「だけど、それは一瞬程度なら使用は可能なのでは?」 ファイは質問をウルカヌスに向けて放つ。 「それは事実可能だ。だが、その一瞬ですら、お前は使用する事は出来ない。お前はあまりに貧弱で、その一瞬ですら肉体は灰燼と化すだろうからな」 ごくり、生唾を飲み込む音が自分の耳にしっかりと聞こえてくるファイ。 それ程の破壊力と火力をもった技、好奇心と恐怖が心を支配する。 使ってみたいという好奇心と、自らの命を対価する事への恐怖。 使いたいのなら……。 「強くなる。これからもっと強く。父さんにも母さんにも負けないくらい」 ファイはまっすぐ、ウルカヌスの眼を見て宣言する。 「なら楽しみしておるぞ。これからは呼びかけにはなるべく応じる事にするから。こいつに呼び出される事はもうごめんだからな」 溜息を吐くと、ウルカヌスはそのまま刀の中へと戻っていった。 「……良かったな、小僧。これからは自由にあいつを呼び出せるぞ」 祝福ともとれる言葉をファイにかけるヘル。 「そうだな……でも未だ力不足なんだろう? なら同じことだ。俺が強くならない限りは」 「そう悲観するな。ウルカヌスを呼び出す事が出来るだけでも十分では無いか」 「戦闘が出来なければ俺にとってはすべてが同じだ。でも、ありがとさん」 ファイはそれだけ言い残して、部屋から出ていった。 酷く疲れていたように見えたその背中からは、揺らめくような気迫が溢れ出していた。
/780ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19288人が本棚に入れています
本棚に追加