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そしてそれを説明するための言葉を一つしか、現在の所は持ち合わせていない。
「……さぁ?」
その場の空気が一気に凍りつく。
その温度と言えば、氷よりも冷たい事だろう。
何せ、カレナの勇気を振り絞って起こした行動に対して、「さぁ?」の一言で終わらせたのだ。
薄々いる理由に気が付いているリオンも、その回答には唖然とせざるを得ない。
流石に、これは酷い。
「……もう良いよ。お前は」
溜息を吐いて言い捨てるリオン。自分の孫の鈍感ぶりに関しては、溜息を吐くよりほかに、反応の方法が見つからない。
溜息を吐く以外にどうしろというのだ。
後ろで若干落ち込んでいるように見える、カレナを慰めでもした方が良いのだろうか。
だが、そんな事をしても何にもならない。
恋事情は個人に任せるほかに、外から何もする事は無い。
外野がとやかく言った所で、当人たちに自覚がなければ、意味をなさない。
そもそも、お互いの好意をもって更にその自覚を持って、節度ある付き合いをするのがそもそも正しい男女交際なのだ。
互いの理解さえあればそれでよい。
たとえ後先が見えずとも、刹那の今、どれほどまでに傍らにいる者に恋い焦がれているかによって、その行く先は決まる。
その思いが熱いのなら、今を精一杯生きて、生き抜くべきであると、そうリオンは思っている。
それが若くして亡くした娘を持った、父親の考えだ。
愛する者をわずかな間といえども、その手に抱き締める事が出来たと、彼女は笑っていたのだから。
だが、一応二人の感情は知っているので、多少のフォローはしてやるつもりだ。
この場にいる〈落ちこぼれの学生〉であるリオン・ヒルタレンとして。
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