学生の敵

12/89

19288人が本棚に入れています
本棚に追加
/780ページ
だが、ファイは特に気にした様子も無い。 「そうですか? 別に俺はなんとも思いませんけど」 「お前はこの良さが分からないのか。哀れな奴だな」 「リオン様に言われたれたくはありません」 「まぁいいさ。お前にも分かる日が来る。この新妻のような後ろ姿の良さがな」 彼の新妻、という言葉に反応してしまうファイ。 『あなた、ご飯が出来ましたよ』 現在、彼の頭の中では、カレナが自分の妻となって食事を作ってくれている妄想が、流れている。 もし自分と彼女が結婚する事になったら……。 なんて、今はかないもしない妄想を頭で浮かべるしか出来無い、自分が悲しくなる。 「ところでリオン様、カレイネル襲撃の犯人は見つかったのですか?」 話題を変えようと、ファイは自ら話を持ちかける。 だが、リオンは顔が赤くなっている事に気が付いて、笑みがこぼれてしまうのを、必死でこらえながらファイの質問に答える。 「あの事か、まだ犯人は見つかっておらんようだな。若干、何かしら嫌な予感がするのだが……」 「最近物騒ですからねぇ。こないだの誘拐事件といい、何が起きているのやら」 「あの事件も黒幕がまだ見つかっておらん。お前たちが戦った連中も、雇われの身だったらしいからな。なんともいえん」 「あの事件もそうですか。本当にいやな予感がしますね」 「如何にこの国が他の国と比べると、平和で治安がある程度安定しているとはいえ、争いごとは起こる。何せこのご時世だ。お前だって、他の国が戦争をしている事くらいは知っているだろう?」 「ええ、まぁそれなりに。しかし、リオン様の話を聞くたびに疑問に思いますね。かつては五つしか無かった国が、今では内戦やら何やらで幾つにも分断しているなんて」 「俺とて悲しいよ。俺達の国は何のために滅ぼされたのか。……もともと、連中が力を欲したのが、原因だったからな」 溜息を吐くリオン。この話をするたびに憂鬱になる彼の表情は何を思っての事か。
/780ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19288人が本棚に入れています
本棚に追加