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中学校の卒業式の後、田辺孝平(タナベコウヘイ)と長坂広也(ナガサカヒロヤ)は、校門近くの日だまりに立ちつくしていた。
「…来ねえな」
「ああ、全く来ないね」
二人は制服の第二ボタンをもらいに来る女子が現れるのを待っているのである。
「なんで一人も来ねえんだよ」
「バレンタインにはあんなにたくさんチョコレートもらったのにね」
バレンタインデイには一人が大勢からチョコレートをもらうことができる。
しかし、制服の第二ボタンは一つしかない。
だから、大勢の女子が牽制し合って、結果、誰も二人のところに第二ボタンをもらいに来ないのである。
吹奏楽の花形、トランペットの中でもさらに目立つ存在であった二人は、女子に人気があった。
それゆえの第二ボタンをもらいに来る女子待ちであったが、バレンタインデイのチョコレートと制服の第二ボタンの意味的な違いに気付かない二人は、まだ同じ場所にいた。
既にカップルになっている者や、最初は孝平達のようにうろうろしていたが諦めた者も帰り始め、辺りは閑散としていた。
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