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紗智と初めて話したのは、燃える様な夕日を見たあの日――。
放課後の静まりかえった教室で、席に黙って座ったまま、景色が赤く染まっていくのを見ていた私は、何とも言えない衝動に駆られて、屋上まで全力で走った。
勢い良くドアを開け、真っ直ぐに大きな夕日に体当たりする様に突っ込む。
何だか胸がムズムズする様な、走ったせいでのドキドキなのかは解らないが、今日こそ『いける』と思ったのだ。
まるで獣になったかの様に、フェンスを無我夢中でよじ登り、更に夕日に近付く。
これが私の望んだ、最も美しい死に方なのかもしれない。
あと一歩。
もう少しで。
もういける。
そう思ったのに――。
「やめなよ」
その誰かの一言で全ての気持ちが台無しになった。
一瞬にして。
頭にきて、声のした方向へ顔を向けると、自分と同じ様な、今にも飛び降りそうな体勢でいる『彼女』が見えた。
私は自分でも驚く程冷静になり、「あんたこそ、やめなよ」と言った。
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