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私には、父親がいない。
ずっと、母親と二人で生きてきた。
今の母は、恋人の所に入り浸りで私の所には週に二度程しか顔を出さない。
それでも良かった。
母には母の人生がある。
好き勝手に生きれば良い。
私に生活費を入れてくれて顔を出してくれるだけでも素晴らしいと思える。
世間から見れば、酷い母親かもしれないが……。
誰も居ない2LDKのオンボロアパートへ帰り、居間の明かりを付けた。
そして、いつもの鍵置き場に鍵を置く。
私が必ず見る場所に、母の置手紙。
――奈央、お帰りなさい。
夕飯食べて下さい。
あなたの好きな酢豚、作りました。
母より――
テーブルの上にはその酢豚の他にも沢山のおかずが並び、忙しい中時間を裂いて来てくれた母に、心の中で感謝した。
一緒には食べられなくても、コンビニ弁当やインスタント食品は子供に食べさせたくないと母はいつも言っている。
その為、いつでも冷凍庫には母が作ってくれた料理が沢山ストックしてあった。
私は、電子レンジに母の作った料理を入れて温める。
今日のは作り過ぎだ、等と思っていた矢先に携帯が鳴った。
携帯を手に取り、ディスプレイを見る。
――紗智だった。
私達は別れ際、親友の証に、と携帯番号を交換していた。
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