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あたしの足に生温かい感覚がした。
雨音は微笑みを絶やさず、じっとこちらを見ている。
あたしは首を動かし、足元を見た。
学校指定の青いスリッパが、何故か黒く、にじんでいく。
最初はつま先だけが染まっていたのに、だんだんと暗闇が侵蝕してきて、やがてスリッパ全体が黒に染まった。
いや……染まったのではない。
溶けていっている………。
じわりじわりと足が消えていく。そしてそこから赤黒い液体がこぼれてくる。
痛くない。
ただ感覚のない妙な温かさが、薄気味悪いくらい続く。
足が完全に消えたあたしは、バランスを崩して転びそうになった。
すかさず雨音が私の脇の下に手を入れて、こけないように、支えてくれた。
「陽子は私のことを忘れて、毎日幸せそうだったね」
息がかかるくらいの至近距離で、妖しいほどの美しい顔をあたしに向けて、耳元でつぶやいた。
違う…。雨音を忘れてなんかいなかった。
違う違う違う違う違う……。
あたしの今までの記憶が、走馬灯のように頭の中を駆け巡った。
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