10人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
『陽子…服を買ったの。どっちにする?』
お母さんの声が響く。
まだ若いお母さんの細い腕の中に、黒く地味な服と、華やかな桃色の服があった。
『陽子が先に選びなさい。雨音は妹なんだから、陽子の言うことをよく聞くのよ』
お母さんの口癖。
幼かったあたしは、迷うことなく好きな桃色のほうを選んだ。
お母さんは満足気にうなずいた。
あたしの双子の妹であった雨音は、この理不尽な環境に表情ひとつ変えず、ただ従うのみだった。
あたしはそんな雨音を気味悪く思った。感情を持たない日本人形のようで、恐怖を感じていた。
最初のコメントを投稿しよう!