6月の雨

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  「叩かれていた私を、陽子はいつも遠くから見ていた。見ているだけだった。姉さん、助けて。今なら忌々しく感じる台詞を、あの頃は何度も何度もつぶやいていた」 「っ、あ、あま……ね」 あの頃のあたしは、本当に馬鹿だった。何も知らないふりをした、温室育ちの子どもだった。 「今さら、私に手を差し伸べても、意味がないの。無駄なの」 「……っ!」 あたしの唇は微かに震え、喉が枯れて声が出ない。息を吸っているのか、吐いているのかわからない。 動くことすら、許されなくなった。 気付けば、私のお腹がなくなっている。 下にしたたる液体は、大きな黒い水溜まりになっていて、床に染み込んでいく。 「あ、あま…っね……お願……い……きい…て」 あたしはのどを震わせ、精一杯、言葉を声にだした。 「残念、聞けない。だって陽子の言葉には何の意味もないから」 雨音は小さな声で言った。 それからただ無表情で、黒い液体となり消えていくあたしを見つめる。あの頃のあたしが雨音を見たように、その瞳には冷ややかな侮蔑を交えて。  
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