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「それで今に至るの」
木下さんは長い話を終えて、ひとつ大きなため息をついた。
「……そっか」
返事は一応するものの、俺は今だ半信半疑だった。
時計の秒針の音が、やけに響く。
「やっぱり信じれない……よね」
只今午後10時。そしてここは俺の部屋。
何故ここに木下さんがいるかというと、それは俺と当の本人もわからない。
俺がテレビを見ていたら、いきなり後ろから「助けて」という木下さんの声がして、心臓が口から飛び出んばかりに驚いた。
俺には木下さんの姿は見えないが、よく通る高い声は聞こえる。木下さんもどうやら何故俺の部屋にいるかわからないらしい。
木下陽子さんは、今は幽霊の状態だ。
「現にまだ生きてる木下さんが、魂だけここにいるってことは…まあ、信じるも何も事実だしな……」
「…うん。如月君、雨音を見たんだよね? 様子はどうだった?」
「様子は……」
木下さんから聞いた、双子の妹……雨音の話。そして気絶した間に見た、夢のような出来事や雨音に対する懺悔。
そして俺が見た雨音。狂ったように笑う姿や、今にも消えそうな儚げな視線。
「なんというか……異様な雰囲気だった。あまり木下さんと話したことない俺でも、木下さんじゃないってわかるくらい」
「……そっか」
木下さんの声には、いつもクラスをまとめるときの明るさなどなく、疲労や苦悩がない交ぜになっているようだ。
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