6月の雨

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  うだるような梅雨の湿気と、五月病らしい憂鬱な心持ちで、放課後の退屈さをどうもてあまそうか。 電車の時間までかなりある。あいにく傘を忘れたから、雨が弱くなるまで教室にいよう。 俺は雨の様子を確認するために、誰もいない教室の窓を思い切り開けた。 途端に耳に入るのは、雨の音とそれに負けない掛け声。死にもの狂いで、ひとつのボールに青春を託す野球部が見える。 こんな雨の中よくやるな。 俺は雨が嫌いだ。もとからクセのある髪が湿気で更にはねてしまう。そのせいで、ここ最近は毎日早起きをする羽目になっている。 「あ……っ」 教室の引き戸が開く音と同時に、小さな声が聞こえた。 「如月君?」 確かに俺は如月君。 クラスの女子だろうか。名前を呼ばれて無視するほど俺の体力は衰えていなかったので、仕方なく声のした方へ振り向いた。 「教室に電気がついてたから、誰がいるのかなぁって思ってた! 如月君だったんだね」 そこにいたのは、同じクラスの木下陽子さんだった。 いつもクラスの中心にいるような人物だからか、名前はフルネームで覚えていた。 相変わらず眩しい笑顔を振りまいている。まるで梅雨の雲を消し去る太陽のようだ。  
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