6月の雨

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  「あたし、日直だったんだ。日誌書いたり提出物まとめなきゃって、ついさっき思い出して、急いで戻ってきちゃった」 あははと陽気に笑う木下さんの、髪を結わえて露わになっているこめかみには、雨粒か汗か判別できない水が垂れていた。 「電車通学?」 「んーん、バスだよ」 「バス!? ここらのバスは、ひとつ逃したら2時間以上次の便ないんだろ?」 「うん。まあ、終便まであと何本かあるし、大丈夫大丈夫」 木下さんは事も無げに言う。わざわざ走って来たのだろう。律儀な人だ。誰からも好かれている理由がわかる気がする。 「それにしても暑いね」 木下さんは自分の席につき、日誌と筆箱を取り出した。俺もとくにすることがないから席につく。俺と木下さんの間に2つの机がある。 こう見ると、まあまあ近い席だったんだなと今更ながらに思った。 「今日の一限は何だったっけ。生物?」 「数学だったと思う。生物は二限」 「ああ、そうだったね。ありがとう。……ねえ、最近の数学わかる? あたし全然わからないんだけど」 「俺は数学自体苦手だからさっぱりわからね。でも木下さん、今日当てられてたけど、すらすら数式解いてなかった?」 「今日はなんとなく当てられそうな気がしたから、予習しておいたんだー。ほんと運がよかったよ」 木下さんとちゃんと話したのは今日が初めてかもしれない。人なつこいのに媚びない様子で、警戒することなく話せられた。  
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