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ガタン
木下さんはスローモーションのように、椅子からゆっくりと床へ堕ちていった。
バランスを崩したわけでもないから、気分が悪くなったんだろうとか、そんなこと考えている暇はなく、俺は反射的に木下さんの手を掴んで引き上げた。
長く柔らかい髪が俺の頬をかすめて、くすぐったかった。
「木下さん?」
俺はぐったりした木下さんをとりあえず椅子に座らせ、どうしていいかわからないまま名前を呼んでみた。
俺の問いに木下さんは応えない。
死んだように目をつぶり、体を揺さぶっても起きやしない。
急にどうしたんだ。さっきまで普通に話していたはずなのに。貧血持ちなのだろうか。どうしよう、どうしようどうしよう。
とりあえず、誰か、人をよばなきゃ。
「……ね…」
焦る俺の耳に入る、木下さんの高い声。俺は少し安心して、机にうなだれる木下さんの顔を見る。
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