6月の雨

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  「ま……ね」 木下さんは額に汗をうかべ、目を閉じたまま何かをつぶやいていた。 「…ね………あ……ま…ね…っ」 「木下さん?」 「………」 俺の呼びかけに気がついたのか、木下さんは急に口の動きを止めた。 「……どうした?……木下さん?」 「……………」 「ちょっと、誰か呼んでくる」 俺は教室を駆け出そうとしたとき、後ろから何かが起き上がる気配がして、急いで振り向いた。 木下さんは眉をぴくりと動かしながら、ゆっくりとまぶたをあけた。 よかった。俺は心から安堵した。 「大丈夫、木下さ…………ん?」 それはもう木下陽子ではなかった。 というのは未来を知ってる語り手の特権。未来の俺の発言だ。 まだこのときの俺は、先ほどまでのほがらかな笑顔の持ち主とは、ほど遠い何かを感じただけであった。  
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