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「……ミーラ、カミーラ何処です?」
玄関の方から、この孤児院の責任者である老母の声が聞こえてきた。
「ほっ、ほら、お義母様が呼んでいます。私を見送るのに、涙で見送るのですか」
自分で言っておきながら卑怯な言い方だと思う。
こんな言い方をしてしまえば、二人なら無理をして涙を止めるだろう。
長い月日を姉妹のように接してきた二人のことをカミーラはよく分かっていた。
この孤児院という名目の収容所のような世界に来て早六年。カミーラは今、この院にいる特殊な子供の中で最年長になってしまった。
(いつかは訪れると分かっていたことです)
今日という日を嫌々迎えた訳ではなかった。
自分で言えば嫌味に聞こえるが、カミーラはこの院から出た子供たちの中でも比肩することもできない程、優秀だった。
技能、判断力、能力、全てが歴史の長い院の中でもダントツ。
だからこそカミーラは、歴代最年小で引き抜かれる。
「いつかは貴方たちも私と同じ世界に来るのですから、悲しむことではありませんよ」
ぐっと涙を堪える二人を見て、この二人ならきっと自分が居なくても大丈夫だと確信する。
神楽は、無口ながらも、カミーラが認める程の潜在能力の持ち主だ。
早熟の自分と違い、時間をかけて訓練に取り組めば、いつか自分を抜く逸材だとカミーラは見抜いていた。
可奈子はその優しさが難だが、サポートに回れば、誰よりも的確に行動できる。
(私には勿体無いほど、優秀な妹たちです)
カミーラは口を噤(つぐ)んだ二人の肩を抱き寄せる。
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